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東京高等裁判所 昭和26年(う)5315号 判決 1952年3月04日

控訴人 被告人 洪性麟

横浜地方検察庁検察官検事 宮本彦仙 (被告人車均英につき)

被告人 洪性麟 車均英

検察官 野中光治関与

主文

本件控訴は何れも之を棄却する。

理由

本件各控訴の趣意は、横浜地方検察庁検察官検事大津広吉の被告人車均英に関する控訴趣意書、弁護人桝井雅生の被告人洪性麟に関する控訴趣意書に夫々記載の通りであるから之等を此処に引用し右につき審按する。

桝井弁護人の論旨第一点について。

商標法によれば他人の登録商標と同一の商標一箇を類似の商品に不正に使用し且該商品を販売したときは之を包括的に観察し一箇の商標権侵害行為ありとして一罪の成立を認めるのを妥当とするに拘らず、原判決が判示第一の(一)について商標不正使用の罪、同(二)について不正販売の罪を夫々各別に成立するものとし、更に右(一)に於て被告人洪性麟は判示商品を作成するに際し該商品一箇につき二種の登録商標を不正に使用し以て其の一所為により二箇の商標専用権を侵害した趣意を認定し乍ら法令適用の部に於て其の両者の関係を明示しなかつた違法の存することは原判決に徴して之を認め得るところであるが、右の通り二箇の商標専用権侵害の罪の成立を認めても其の間に想像的競合関係の存すると認められる本件に在つては、商標不正使用の罪と不正販売の罪の成立を認め且其の間に牽連関係ありとして前者の罪の刑に従つて処断する原判決と、結局同一の商標法第三十四条第一号の一罪の刑に従つて処断することとなるのであるから、原判決の違法は判決に影響を及ぼさないものと謂い得るのであつて、此の点に関する論旨は採用するに足りない。

(その他の判決理由は省略する。)

(裁判長判事 稲田馨 判事 坂間孝司 判事 三宅多大)

弁護人の控訴趣意

第一点原判決は法令の適用に誤があつてその誤が判決に影響を及ぼすことが明らかである。原判決は被告人の犯罪事実として(一)池田某との共謀による、三井工業株式会社の有する登録商標と同一商標を同会社製品たる甘味剤ミツゲンと類似の商品に不正に使用したる商標法違反の行為と(二)右登録商標を不正に使用したる模造のミツゲンを前田富造に販売したる商標法違反の行為との二個の犯罪行為を認定し 以上の(一)及び(二)の各行為に対し夫々別箇に商標法第三四条第一号を適用したる上右両者を牽連犯なりと解して刑法第五四条第一項後段を適用し(一)の罪の刑を犯情により重きものとなして、その所定刑中懲役刑を選択し被告人を懲役一年に処するとの実刑を科して厳罰してゐます。

一、然し原審認定の右(一)の偽造商標の不正使用と(二)の右偽造商標を附したる模造商品の販売行為とは之は包括して観察し一個の商標権侵害行為なりと認むべきものにしてその罪質が一罪を構成すべき集合罪の一種たる営業犯に属するものであり且被害法益が商標専用権に在る点より観ても理の当然であります。然るを原審がこれを分割して観察し各独立の一罪として処断したるは縦令牽連犯の規定の適用により其の実際に於ては不当でないとの強弁を須ひても単純なる一罪としての観察と夫々に独立して犯罪成立すと做すものとでは感情に於て差違あり延いて刑の量定に影響なしとは断じ得ざるを以て斯かる法令の適用の誤は判決に影響あるものとし原判決は破棄せらるべきものであります。

二、次に原審の認定したる右(一)の犯罪事実につき原判決についてこれを視るに原判決に於ては被告人が不正に使用したる三井工業株式会社の登録商標は「ミツゲン」(商標登録番号第三八三三八二号)及びMITSUGEN(商標登録番号第三七五一九〇号)との二個の商標なることを判示してゐるに拘らず法令の適用としては何等これに触れることなく、慢然、商標法第三四条第一号にあたる旨を示してゐるだけであります。斯くの如く二種の登録商標の不正使用は二個の商標専用権の侵害であつて従て被害法益は二個となるわけであります、この点につき何等の法令の適用を明示せざる原判決は亦失当であり到底破棄を免れないと思料します。

(その他の控訴趣意は省略する。)

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